昆布やワカメ、モズクなど海藻の“ねばねば”を生む成分「フコイダン」が、大腸がんの改善に役立つかも知れないとして、食事療法や代替医療を考える大腸がん患者や家族からフコイダンが注目を集めています。 そこで、どうしてフコイダンが大腸がんの抑制に関係すると言われているのか、フコイダンの性質や根拠、またフコイダンを多く含む食材について、総合的に解説していきます。
フコイダンは、ヒトのABO血液型を決めるH抗原としても存在する糖類「L-フコース」が数多く連結した硫酸多糖類であり、一般には昆布やワカメと言った海草類の表面で、“粘り気”を生み出す「水溶性食物繊維」の一種として知られます。 フコイダンは1913年にスウェーデンの科学者H.Z.Kylinに発見されて以降、1970年頃から医療分野での研究が世界的に進められ、1990年代後半からは日本癌学会でもフコイダンに関する研究発表が報告されるようになりました。
フコイダンには、抗がん作用だけでなく、抗凝固作用や抗血栓作用、抗ウィルス作用と言った様々な働きがあると考えられています。また、樹状細胞の指令を受けてがん細胞を攻撃するT細胞や、体にとって害となる物質を広く攻撃するナチュラルキラー細胞(NK細胞)などを活性化する、免疫増強効果も示唆されており、フコイダンは健康食品としても人気の成分です。
高濃度のフコイダンには、生体内でアポトーシス(細胞死)を活性化する働きがあると示唆されています。
アポトーシスは「細胞の自殺」とも言われる生体機能であり、体の中で“生命活動に必要でない細胞”を死滅させることで、異常な細胞増殖を抑制したり、肉体の形状を整えたりする為のシステムです。フコイダンは「がん細胞」におけるアポトーシスを活性化させることで、がん細胞を減少させ、病状を改善する効果があると期待されています。
フコイダンを投与することにより、T細胞などのリンパ球が増殖して、免疫力が強化されることが示唆されました。
ただし、この作用は“高濃度のフコイダン”条件下では逆に抑制されたというデータが同時に得られており、適切な量や濃度の調整が免疫力増強の鍵になるのかも知れません。複数の植物由来のフコイダンなどを混合された「フコイダンミックス」が、NK細胞の活性化や免疫物質インターフェロン-γ(IFN-γ)の産生を促し、抗がん剤の副作用として知られる免疫力の低下を改善したという報告がされています。
また、同研究では併せて、IFN-γを生み出すTh1細胞やマクロファージの減少の緩和に対しても、フコイダンミックスが有効であると示唆するデータも得られました。
フコイダンは特に、沖縄モズクやガゴメ昆布、メカブなどに多く含まれています。また、フコイダンは抽出元となる海藻の種類によって、その構造や分子量が異なることが分かっており、フコイダンの分子量の違いはその機能に影響を及ぼすことが示唆されました。
一部の研究から、フコイダンによる様々な抗腫瘍効果は、それぞれフコイダンの構造や濃度によって違いがあるという可能性が示唆されています。
フコイダンは世界的に研究が進められており、がんへの改善効果も数多く示唆されています。しかしフコイダンはあくまでも食材に含まれる成分の1つであり、抗がん剤ではありません。 正しい大腸がん治療を考える際は、担当医と相談しながら、自分に合った内容を考えていくことが大切です。
[※1] 鈴木信孝,他(2013)「がん患者に対するガゴメ昆布フコイダンの長期摂取の安全性評価」
[※2] 宮崎義之,他(2012)「フコイダンミックスの経口摂取による健常人におけるNK細胞およびTh1免疫の増強」
[※3] 朴今花,他(2004)「分子量および構成成分の違いによるフコイダンの生物活性―リンパ球の増殖と免疫機能への影響―」
[※4] 宮崎義之,他(2013)「癌化学療法モデルマウスを用いたフコイダンMix経口投与による免疫抑制緩和作用の検討~抗癌剤治療の副作用に対するフコイダンMixの緩和効果~」