~よくわかる大腸がんの基礎知識~

大腸がんのステージと治療を知る
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手術療法(外科療法)

進行してしまったがんをメスで切除して治療を行なう手術療法。ここでは、主に開腹手術について紹介します。

参照元:国立がん研究センター がん情報サービス 大腸がん「治療」
参照元:がん研有明病院 大腸がんに対する腹腔鏡下手術
参照元:藤田 伸、島田安博(2011)『国立がん研究センターのがんの本 大腸がん』小学館クリエイティブ.
参照元:福長洋介(2016)『よくわかる最新医学 大腸がん』主婦の友社.
参照元:東戸塚記念病院公式サイト 参照元:国立がん研究センター中央病院公式サイト 参照元:近畿大学医学部付属病院公式サイト

手術療法とは

がんが粘膜の下層まで進行し、内視鏡治療で切除できない場合はメスを用いた手術治療を行ないます。手術では転移する可能性が高いリンパ節の切除と、がんから10cm離れた部位から腸管にメスを入れるのが原則。がんの塊を一気に除去できるので、完治する可能性が高い治療方法です。ただ術後の回復にある程度時間がかかったり、傷跡が残ったりすることもあります。

結腸がんの手術法

がんから10cmほど離れた箇所まで腸管にメスを入れて腸管同士をつなげたり、がんが転移する可能性があるリンパ節を切除したりします。術後に排便や排尿の機能にトラブルが起こる危険性を抑えられる療法です。ここでは結腸(けっちょう)がんの手術療法について紹介します。

腹腔鏡(ふくくうきょう)手術

お腹に小さな穴を開けて、小型カメラと切除器具がついた器具を用いて腫瘍を摘出する治療法です。お腹を大きく切らないため、痛みが少なくて術後の回復が早いのが特徴です。2005年まではステージ0、1の大腸がんに対して行なわれていましたが、2009年度版の「大腸がん治療ガイドライン」(大腸がん研究会編)で、このステージによる縛りがなくなり、高度な技術を持つ医師はステージ3、4の治療にも腹腔鏡手術を選択することも増えてきました。実際、有明のがん研病院では、2005年では、大腸の手術のうち、全体の30%である66件が腹腔鏡手術だったのが、2014年には95%、647件にまで増えています。

結腸切除術

腫瘍がある結腸を切除して、残っている腸と腸をつなぐ治療方法です。結腸とは盲腸や直腸以外の大腸を指します。

直腸がんの手術法

直腸の近くにがんがある場合、排尿や排便、性機能をコントロールする神経を切除する可能性もあるため、がんを完治しようとするとその機能に影響が起こる可能性があります。ここでは直腸がんの手術療法についてまとめました。

経肛門的(けいこうもんてき)直腸局所切除術

肛門付近の直腸に大きな腫瘍があり、内視鏡治療をできない場合に、肛門からメスを入れて腫瘍や腸管を除去する治療法です。

前方切除術

ある程度広がっている腫瘍をリンパ節と一緒に切除する施術。腫瘍とリンパ節の除去が終わると、直腸と結腸を自動でつなぎ合わせることができる特殊な医療器具を用いた治療方法です。

直腸切除術、人工肛門造設

腫瘍ができた直腸と肛門を切り取る直腸切除術。その後、切り取った肛門の代わりに人工肛門(ストーマ)と呼ばれる便の出口を腹部につくり、排泄できるようにします。ストーマについては別ページで詳しく解説しています。

人工肛門(ストーマ)での生活について知る

腹腔鏡手術の体験談

傷跡がほとんどわからない!

大腸がんステージ3と診断され、その病院では開腹手術を勧められました。でも、お腹に大きい傷跡が残るのがイヤで、他の病院でも診察を受けたところ、「腫瘍もそれほど大きくなく、転移もないので、これなら腹腔鏡手術でいけます。その場合、おへその近くを少し切るだけなので、傷跡があまりわかりませんよ」と言っていただきました。傷跡の写真も見せていただきましたが、本当にあまりわからない!「ぜひお願いします」と即決しました。

当日は全身麻酔で、気がついたら終わっていました。翌日には歩くことができ、病室の隣のベッドでは、同じ日に開腹手術をした方がいたのですが、その方は「すごい、まだまだ歩けない」と言っていたので、やはり体の負担は少ないんだと実感しました。入院はそれでも3週間しましたが、その頃には入院前と変わらないような生活をしていました。退院後すぐに仕事復帰もでき、本当に腹腔鏡手術様様です。正直、そのあとの抗がん剤治療の方が数百倍ツラく、途中で断念してしまいました。なので、転移が怖いので、検査は欠かさず行っています。術後3年経過していますが、傷跡はよく見ないとわからないくらいになっています。(30代・女性)

手術前後の様子(東戸塚記念病院)

東戸塚記念病院の発信する情報に基づき、大腸がんの手術前後の様子を解説します。他の病院で手術を受ける場合でも、概ね同じようなイメージとなるでしょう。

大まかな流れ

朝から点滴管理を行い、手術室に入ると、術後の疼痛管理のため背中から麻酔の管を挿入。その後、手術中の身体管理に必要な心電図等を装着し、手術の準備を終えてから麻酔が効くまで、30~60分ほど待ちます。

手術自体に要する時間は、開腹の場合は2~3時間で、腹腔鏡下の場合は3~5時間。状況によっては時間が前後することもあります。

手術が終了したら患者の家族を呼び、手術の結果について報告。

術後、患者のお腹にはドレーンと呼ばれる管、および尿道バルーンなどの医療器具が装着されていますが、翌日からは尿道バルーンを外して可能な限り歩行を推奨。ベッドから離れている時間が多ければ多いほど、その後の合併症の発症率が下がります。

数日間は食事をとることができず、点滴により栄養を投与。排ガスや排便、レントゲンなどの状況を確認し、医師が総合的な観点から飲水や食事の開始時期を判断します。

入院期間には個人差がありますが、多くの場合は2週間前後で退院となります。

参考にさせていただいた医療機関

東戸塚記念病院

東戸塚記念病院
https://www.higashi-totsuka.com/
院長 山崎 謙
住所 神奈川県横浜市戸塚区品濃町548-7
TEL 045-825-2111
診療受付時間 8:00~11:45 / 13:00~16:00
(土曜は午前のみ)
休診日 日曜・祝日・年末年始(12/31~1/3)
※12/30は午前中のみ診療

外科部長・医局長 有田淳医師

1989年、日本医科大学医学部卒業。日本医科大学附属病院にて講師等を務めたあと、東戸塚記念病院に入職。現在は同病院の外科部長・医局長として、消化器系の手術をはじめ多くの一般外科手術を手掛けています。

医学博士の称号の他にも、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、消化器がん外科治療認定医など、多くの専門資格を保有。鼠径ヘルニアや胆石の治療も得意としています。

ロボットも導入している国立がん研究センター中央病院

国立がんセンター中央病院の大腸外科に所属するドクターは5名。このエキスパートたちの手によって、国内最多級である年間600例以上の大腸がん手術を行っています。

以下、国立がんセンター中央病院における大腸がん手術の方法、考え方等について見ていきましょう。

標準治療は開腹手術

大腸がんの腹腔鏡下手術が急速に拡大している近年ですが、国立がん研究センター中央病院では、現在でも大腸がんの標準治療として開腹手術を選択しています。開腹手術には、患者の身体的負担や、術後の美容上の問題など、いくつかのデメリットがありますが、その一方で大きなメリットがあることも忘れてはなりません。開腹手術のメリットについて、同院では次のように語ります。

メリットは、執刀医が患部を直接見て、触った感覚を確認しながら治療が進められる点です。患部を広く見渡せるため、出血などがあってもすばやく対応することが可能です。また、見逃されがちですが、使いきりの器具をほとんど使わないため、手術費用が後述の腹腔鏡手術より安くて経済的であることもメリットと言えます。

引用元:国立がん研究センター中央病院「診療について」

なお同院では、開腹手術の翌日から患者を一般病棟に移動させ、早々に歩行訓練を開始します。安静を保つよりも、早めに体を動かすほうが、良好な予後につながると同院では考えています。

患者の身体的負担が少ない腹腔鏡下手術

大腸がんの標準治療として開腹手術を選択している国立がん研究センター中央病院ですが、近年では、患者の身体的負担が小さいなどのメリットも重視し、症例によっては積極的に腹腔鏡下手術を採用しています。ただし、開腹手術に比べて腹腔鏡下手術は難度の高い術法であるため、経験の少ない医師が安易に執刀することはありません。

同院で大腸がんの腹腔鏡下手術を受けた患者は、手術の翌日には歩行が可能となり、術後3日目から食事もスタート。特に問題がなければ、手術から7日程度で退院となります。

ロボット支援手術も積極的に導入

国立がん研究センター中央病院では、直腸がんの手術において、最先端の手術用ロボット「ダヴィンチ」を導入しています。導入のメリットについて、同院は次のように説明します。

術野の3D画像を拡大して画面に映し出すことが可能であり、また先端が自由に曲がるロボット機器を使用することにより、従来の手術よりも更なる繊細な操作が可能となる最先端の手術です。手術創が小さいため、美容面で優れており、術後の痛みが少なく回復が早いことは腹腔鏡手術と同様です。更に、狭い骨盤内では温存しなければいけない神経などが存在しますが、ロボットの支援による繊細な手術で、排便・排尿・性機能に関わるこれら神経の機能温存が期待されています。

引用元:国立がん研究センター中央病院「診療について」

大腸外科領域においてロボット支援手術を行っている医療機関は限られていますが、同院では急速に症例が増えているそうです。

世界最多数を誇るリンパ節清術

大腸がんを発症した場合、リンパ液の流れる方向に沿って、リンパ節転移が見られることが分かっています。一定の法則に基づいて発生する転移であるため、転移を予防する目的であらかじめリンパ節を切除することがあります。この手術をリンパ節郭清と言います。国立がん研究センター中央病院は、同症例数において世界最多を誇ります。

情報の参考にさせていただいた医療機関

国立がん研究センター中央病院

国立がん研究センター中央病院
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/
院長 西田 俊朗
住所 東京都中央区築地5-1-1
TEL 03-3542-2511
診療受付時間 8:30~17:00
休診日 土曜、日曜、祝祭日、年末年始

大腸外科長 金光幸秀医師

1999年、名古屋大学医学部卒業。その後、市立四日市病院外科医院、名古屋大学医学部第二外科を経て、1995年より国立がんセンター中央病院に入職。その後、愛知県がんセンター中央病院消化器外科を経て、2013年より国立がん研究センター中央病院に大腸外科科長に復職しました。

日本消化器外科学会専門医、日本台帳肛門病学会専門医、日本外科学会専門医、日本がん学会認定医など、多くの専門医資格を保有。腹腔鏡手術や隣接・転移臓器合併切除まで、豊富な手術実績を持つ名医です。

大腸がん治療ガイドライン作成委員や、NHK健康chの解説者としても知られています。

術後の合併症を理解する

近畿大学医学部附属病院の公式サイトでは、大腸がんの術後の合併症について詳しく解説しています。インフォームドコンセントやセカンドオピニオンに積極的な同院らしい姿勢と言えますね。

以下、同院の公式サイトから「術後合併症」についてピックアップしてみました。

大腸がんの術後に起こりうる合併症

縫合不全

腸同士の縫合がうまくいかず、縫合部から腸内容が漏れ出す症状。炎症が強い場合には、一時的に人口肛門が必要です。同院の大腸がん手術における縫合不全の発生率は4%。

出血

手術が終了する際には念入りに止血を行いますが、それでも術後に再出血することがあります。再出血した場合には、必要に応じて輸血を行います。宗教上の理由で輸血を拒否する場合には、医師に相談してください。

細菌感染

大腸は細菌に富む部位のため、他の消化管手術に比べて感染が多くなります。同院における感染の発生率は8%。感染が見られた場合には、抗生物質の投与によって改善します。

癒着性腸閉塞

術後、腸と腸壁、あるいは腸同士で癒着が起こり、腸閉塞に至ることがあります。腹痛や腹部の膨満感、吐き気、嘔吐などの症状を自覚した場合には、速やかに医師に申し出てください。場合によっては入院が必要となります。

骨盤神経障害

術後、特に男性患者において、残尿感や尿意切迫、勃起不全、射精能の低下などが生じる場合があります。これは手術によって骨盤内の神経が損傷したことが原因ですが、症状によっては泌尿器科の受診が必要となることもあります。

情報の参考にさせていただいた医療機関

近畿大学医学部付属病院

近畿大学医学部付属病院
http://www.med.kindai.ac.jp/
院長 東田 有智
住所 大阪府大阪狭山市大野東377-2
TEL 072-366-0221
診療受付時間 平日 8:30~11:30 / 土曜 8:30~11:00
休診日 土曜午後・日曜・祝日
大学創立記念日(11月5日)
年末年始(12月29日〜1月3日)

主任教授・診療部長 奥野清隆医師

1977年、和歌山県立医科大学医学部卒業。大阪大学医学部癌研究施設医員、米国ワシントン州立大学フレッドハッチンソン癌研究センター上級研究員、近畿大学医学部助教授、教授等を経て現職に就任。大腸がんの手術や肝転移の治療を専門領域とし、これまでに数々の難症例を手がけてきた名医。

多くの専門医・指導医資格を保有するとともに、日本消化器学会評議員、日本がん免疫学会理事・評議員、日本外科学会代議員、日本がん転移学会評議員など、外科分野とがん治療分野において重職を歴任している医学博士です。