
がん治療の代替治療の1つとして鍼灸があります。ここでは鍼灸ががん治療にどのような効果を期待できるのかについて紹介します。
鍼とお灸を用いた東洋医学である鍼灸。血行促進や免疫機能の向上、鎮痛作用などの効果を期待できます。世界中の110ヵ国以上で取り入れられている治療方法です。
鍼治療は日本で生まれた管に極細の針を通して刺す方法と、中国で生まれた太くて長い針を刺す方法の2種類があります。その2種類を使い分けて患者の症状に合わせて鍼で身体にある経穴と呼ばれているツボを刺激。
お灸はよもぎの葉で作られたモグサをツボの上で燃やします。熱でツボを刺激するため、多少熱いと感じるかもしれません。
どちらも国家資格が必要な技術なので、専門の病院へ通って治療を受けると良いですよ。
日本におけるがんへの鍼灸治療は、外科手術や放射線治療、抗がん剤療法などの「がんの標準治療」に対して、術後の疼痛や副作用の緩和、精神的なリラックスなど、様々な面で患者をサポートする「補完代替療法」という位置づけです。
東洋医学的な鍼灸治療では、人の全身に散在する「経穴(つぼ)」に対して、主に鍼やお灸、指圧などによって刺激を与えることで、患者にとって望ましい効果を期待します。電気や薬物注射で刺激が与えられる場合もあるでしょう。 尚、西洋医学の観点から生理学的なアプローチも進められており、トリガーポイント(痛みが感じられる部位・起点)に対して施術することで、痛みを緩和させる「疼痛コントロール」としての鍼灸治療もあります。 東洋医学的な鍼灸治療と、西洋医学的な鍼灸治療では根本的に発想が異なる為、まずはきちんと専門医や鍼灸師に相談することが重要です。
厚生労働省の研究班が作成した「がんの補完代替医療ガイドブック」では、 鍼治療は以下の症状が治療対象と明記しています。
お灸を据えたり、鍼をさしたりする鍼治療。2000年以上の歴史があり、自律神経の刺激により症状を緩和する方法です。世界保健機関(WHO)は鍼治療の効果を公式に認めており、2006年、361のツボの箇所に関して世界基準を定めました。
鍼灸でがんが小さくなったり消滅したりと直接的な効果はありませんが、免疫機能の向上や血行促進など身体の機能を活性化することができるため、がんをはじめとした病気から回復するサポートにつながりやすいでしょう。また、鎮痛作用を期待できるので、がんの痛みを軽減することにも繋がります。また、そういった直接的な効果はなくても、「リラックスできる」「気晴らしになる」といった意見もありました。
ただし、鍼灸治療を受けているとまれに出血や内出血を起こすことも。抗がん剤治療を受けている場合、出血を止める血小板が少なくなっている可能性が高いので、出血しないように資格を持っている施術者がいる病院やクリニックを選ぶ必要があります。
統合腫瘍学会のガイドライン「科学的根拠に基づいた統合腫瘍学のための臨床実践ガイドライン」(2009)によると、効果があると明記されています。
- 推奨レベル1A
鍼治療は、疼痛管理が不良の時、抗がん剤治療や麻酔に関連する悪心・吐き気で薬物対処がうまく行かいない場合、その他の治療の副作用が著しい時は、補完治として推奨されます。
- 推奨レベル1B
鍼治療は放射線治療によって起こる口内乾燥に対して、補完治療の一つとして推奨されます。
- 推奨レベル1B
鍼治療は、閉経後の女性に起こる血管運動性の症状(顔面紅潮)に対して、偽治療と比べて上回る効果はありません。しかし、重い症状で薬物治療で効果がない患者には、鍼治療を試みてみても良い。
- 推奨レベル2C
どんな方法でも禁煙しない患者や、がんに関係する呼吸困難、倦怠感、化学療法による神経障害、開胸手術後の疼痛のある患者にとって、鍼治療を試すことは有効です。しかし、より多くの臨床試験が行われることが望まれます。
- 推奨レベル1C
鍼治療は鍼師資格を持った者によってだけ施術されるべきです。また、出血傾向のある患者には慎重になされるべきです。
推奨レベルは、推奨度は1、2の順で高く、A~Cは効果を示す科学的根拠の質を表しています。
鍼灸の効果は個人差や体質によって異なります。もし、鍼灸治療を受けるのであれば、統合腫瘍学会のガイドラインで推奨はされておりますが、あらかじめ主治医に相談するようにしましょう。抗がん剤治療によって出血を抑える血小板の量が少なくなっていたり、がんが進行して出血しやすい状態になっていたりする場合は注意が必要だからです。
抗がん剤の副作用が楽になった
大腸がんの術後に再発防止の抗がん剤治療を行いましたが、副作用がきつく、起き上がれない日が続きました。見かねた妻が、いつも通っているという鍼灸院に連れて行ってくれ、鍼治療を試したところ、体が多少楽になりました。その後も抗がん剤で体調が悪くなったら鍼をして、という繰り返しでしたが、やはり副作用が厳しく、2クールで抗がん剤治療を断念しました。少しでも再発防止になればと、鍼は続けています。(50代・男性)
心身を軽くするのには役立った
長い入院生活で、筋肉が減ってしまい、少し歩くと息切れを起こすように。体も凝り固まっているような状態だったので、マッサージに通うことにしました。その場だけでも気持ちがいいので、治療のストレス解消や、体をほぐすのには役立ったような気がします。ストレスを減らすという意味で活用するのがいいのかなと思います。(40代・男性)
[※1] 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会『がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス』
[※2] 「がんの補完代替医療ガイドブック」厚生労働省・がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班
[※3] アメリカの統合腫瘍学会『科学的根拠に基づいた統合腫瘍学のための臨床実践ガイドライン』(2009)