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大腸ポリープは切除した方が良いのか?

ほとんど自覚症状がなく、知らぬ間にできている大腸ポリープ。大きくなってしまうと大腸がんになってしまう可能性があるため、良性の腫瘍といえども見過ごすことはできません。

では、ポリープが見付かった場合には全て切除してしまった方が良いのでしょうか? がん化リスクや切除しない場合のリスクも含め、詳しく解説します。

参照元:大谷 透『EBMからみた大腸がん検診』

現在行われている大腸ポリープへの対処

1970~1980年代には、腺腫は大腸がんの前癌病変であり、切除によって大腸がんの罹患を減らすことができるという考えから、すべての腺腫(ポリープ)が積極的に切除されていました。しかし、近年ではがん化のリスクが高い腺腫や早期がんの一部を選んで切除するという考え方が一般的になってきています。

これに関しては、日本消化器学会ガイドラインにも以下のように記載されています。大きさや形状などによっては、切除せずに経過観察を行う方が効率的だと考えられているわけですね。

CQ5-2 径5mm以下の微小腺腫の取り扱いは?
ステートメント 推奨の強さ(合意率) エビデンスレベル
隆起性病変は経過観察も容認される(経過観察を提案する) 2(100%) C
ただし, 平坦陥凹型病変で, 腫瘍および癌との鑑別が困難な病変は内視鏡的摘除を提案する. 2(100%) D

径5mm以下の微小病変のうち,内視鏡的に過形成性病変を疑う病変は、原則経過観察で良い(CQ5-3参照). 径5mm以下の隆起型腺腫のうち, 癌の所見を呈さない病変も原則経過観察が容認される. 平坦型病変で腺腫や癌を疑う病変に対しては, 内視鏡的摘除が望まれる.

引用元:(PDF)日本消化器学会:大腸ポリープ診療ガイドライン2014

大腸ポリープのリスクについて

大腸ポリープのがん化率

腺腫の癌化を左右する因子としては昔から, ①大きな腺腫ほど癌化率が高いとされてきた。実際に大きさ別に腺腫の異型度を見てみると, 大きなものほど異型度が高く, 癌化率も高い(1cm以下;5.6%, 1~2cm:28.7%, 2cm以上:65.6%)ことがわかる(表11)。

表11 内視鏡的摘除ポリープの大きさと癌化率
大きさ(mm) 軽度異型腺腫 中等度異型腺腫 高度異型腺腫(m癌) sm癌 mp癌 合計 癌化率(%)
<10 246 24 13 3 0 286 5.6
11~20 74 18 28 9 0 129 28.7
>21 7 4 13 8 1 33 65.6
327 46 54 20 1 488 16.7

(東京大学第一外科)

径5mm以下の微小病変のうち,内視鏡的に過形成性病変を疑う病変は、原則経過観察で良い(CQ5-3参照). 径5mm以下の隆起型腺腫のうち, 癌の所見を呈さない病変も原則経過観察が容認される. 平坦型病変で腺腫や癌を疑う病変に対しては, 内視鏡的摘除が望まれる.

引用元:大谷 透『EBMからみた大腸がん検診』

上記の通り、大腸ポリープは大きければ大きいほどがんリスクが高く、小さいものであれば低いようです。このデータによれば、1cm以下の腺腫なら9割以上は切除の不要なポリープということになります。

表12 大きさ, 異型度別頻度<5mm以下>
severe
atypia
m癌 sm癌 Total
307(4.7) 27(0.4) 1() 6516
196(13.2) 10(0.7) 4(0.3) 1484
26(2.5) 1(0.1) 1055
16(2.5) 3(0.5) 2(0.3) 629
18(2.0) 1(0.2) 0 628
(25.0) (0.9) (0.2)
52(17.5) 4(1.3) 1(0.3) 297
30(25.0) 29(24.2) 1(0.8) 120
619(6.4) 100(0.9) 10(0.1) 10729
樋渡班アンケート 18(1.1) 2(0.1) 1680

第58回日本消化器内視鏡学会関東地方会シンポジウムと厚生省がん研究助成金による大腸癌集団検診の精度向上と評価に関する研究班(樋渡班)班員アンケート集計結果による。
*実数不明

表13 大きさ, 異型度別頻度<6~10mm>
severe
atypia
m癌 sm癌 Total
664(18.3) 227(6.2) 44(1.2) 3638
184(27.7) 57(8.6) 10(1.5) 664
40(8.0) 13(2.6) 499
53(22.0) 19(7.9) 9(3.7) 241
37(4.1) 17(1.9) 5(0.6) 278
(45.0) (11.0) (1.5)
24(30.4) 20(25.3) 3(3.8) 79
5(11.9) 13(31.0) 3(7.1) 42
967(19.6) 393(7.2) 87(1.6) 5441
樋渡班アンケート 156(10.0) 25(1.6) 1561

第58回日本消化器内視鏡学会関東地方会シンポジウムと厚生省がん研究助成金による大腸癌集団検診の精度向上と評価に関する研究班(樋渡班)班員アンケート集計結果による。
*実数不明

表12から明らかなように5mm以下の腺腫におけるsm癌の頻度はわずか12個(0.1%)にすぎない。またm癌は1.0%, 前癌病変とされる日本の高度異型化腺腫にしても6.4%にすぎない(表12)。前癌病変までを摘除の対象としても, 5mm以下の腺腫はわずか7.5mmのみとなり, 残りの92.5%は不必要な摘除ということになる。

 一方, 6mm以上10mm以下となるとsm癌は1.6%に, m癌は約10%, 高度異型化腺腫(severe atypia)は約20%に認められる(表13)。すなわち6mm以上の腺腫の約30%以上が摘除の対象となることとなり, 6mm以上の腺腫は積極的な内視鏡摘除の対象であるといえる。

引用元:大谷 透『EBMからみた大腸がん検診』

上記の通り、5mmを境にしてがんの発生頻度に大きな違いが見られることから、この数値がポリープを切るかどうかの基準として一般的に認知され、日本消化器学会ガイドラインの記述にも採用されているようです。

大腸ポリープの成長速度

小さなポリープであればがん化する可能性は低いとは言え、それが大きく成長してしまった場合は切除を検討する必要が出てきます

そうなると、大きさを理由に切除を見送った人は、その後のポリープの様子が心配ですよね。ポリープがどのくらいのスピードで成長しているのか? 切除の必要なサイズまで成長するまでどの程度の時間がかかるのか? 下記の資料を参考にしてみましょう。

 腺腫の発育速度を知ることはなかなか難しく, 楠山ら(1995)の小型隆起ポリープの報告によれば, 5mm以下のポリープが3mm以上増大するのに要した期間が1年以内のものは全体の中でわずか1.4%であり, 2年以内でも4.3%と少なく, 12.3%が2年以上を要していたとされる。  そこで全大腸内視鏡検査をゴールドスタンダードとしてclean colonと確認されてから異時性の病変が出現するまでの期間を検討した結果, 1年以内の異時性腺腫の発生はなく, 異時性腺腫の63.5%は1年から4年までに, また66.1%が2年から6年までに発生していた(表23)。

表23 観察期間と異時性大腸腺腫発生率
観察期間(年) 症例数 異時性腺腫例(%)
~2年 13 1(7.7)
2年~4年 30 14(46.7)
4年~6年 30 21(70.0)
6年~8年 19 13(68.4)
8年~ 19 17(89.5)
総計 111 66(59.5)

(東京大学第一外科)

引用元:大谷 透『EBMからみた大腸がん検診』

切除しなくても良いポリープとは

医学博士である大谷透医師は、その著書の中で下記のように述べています。

 現段階で摘らなくてよいポリープは5mm以下の隆起型, 表面隆起型ポリープ(腺腫)といえる。前述のように5mm以下のポリープにsm癌はほとんどなく, また表面平坦, 陥凹型病変も極めて稀であり, 大腸癌発生の抑制効果も低いからである。仮に5mm以下に中等度異型腺腫やm癌(WHO分類)があったにしてもその発育速度(倍化速度)を考慮すると, 3~4年後の内視鏡検査で6mm以上になった時点で切除すれば十分内視鏡的治療が可能な範囲で対応できると判断される。表面形状やピットパターン腺腫内癌やm癌か確実に診断できるようになれば5mm以下でも選択的摘除が必要となる。しかしその頻度と検査精度や費用対効果を考慮すると極めて効率の悪い検査法となり, 現段階では実用的ではないと考えられる。

引用元:大谷 透『EBMからみた大腸がん検診』

ポリープの大きさや形状、発育速度などから考えて、5mm以下であれば切除しない方が効率的ということですね。

ただし、ポリープの切除に関しては医師によって見解が異なり、大谷医師と同様に「小さければ様子を見て、がん化する可能性が高そうなら切除する」という意見もあれば「たとえ可能性が低くとも、切除しておくに越した事はない」という意見もあるようです。もちろん、がんの検査方法や治療方法については日々研究が行われているので、現時点でどちらが正しい、と断定するのは難しいかもしれません。

ポリープの多くは内視鏡治療によって取り除くことが可能です。しかし、いくら安全性の高い内視鏡治療といえども、それが外科手術であることは間違いありません。身体的・経済的な負担が発生するだけでなく、極めて稀であるとはいえ、合併症などの危険も伴うのです。その事実を認識した上で信頼できる医師と話し合い、納得できる治療法を選択するようにしましょう。

ご意見を参考にさせて頂いた医師について

大谷透内科 院長・大谷透 医師

大阪府 大阪市出身。大阪大学医学部大学院にて腫瘍性化学を専攻し、その後は大阪大学医学部腫瘍性化学助手を務めた。さらにテキサス・ベーラー大学への留学、大阪府立成人病センター勤務を経て、大谷内科を開設。早期がんの診断や大腸の難病治療を得意としている。

大谷透内科

大谷透内科
http://www5f.biglobe.ne.jp/~otani-doc/index.htm
診療科目 消化器科・内科
院長 大谷 透
住所 大阪市東成区中道1丁目4-2 森之宮スカイガーデン
TEL 06-6978-1181
診療時間 9:00-12:30、14:30-17:30
休診日 土曜、日曜、祝日
※水曜は予約のみ
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