
大腸がんステージ3bと診断され、さらに再発まで経験したご夫婦にお話を聞きました。
−−Mさんが大腸がんと診断されたのは何歳の時ですか?(管理人・以下略)
Mさん:今から4年前、52歳でした。51歳の時に会社の健康診断で引っかかりまして、それを例のごとく放置してしまったんです。そうしたら半年ほど経った頃から、食事の後に異様にお腹が張るようになりまして。それで「これはマズイ」と病院に行ったところ、S字結腸のがんが判明しました。がんが大きすぎて、内視鏡の画面に入りきっていなかったんです。先生には「がんができている場所が悪いので、腸閉塞になる可能性があります。今すぐ入院してください」と言われました。病院から妻の携帯と、会社に電話を入れました。
奥さん:携帯に電話があって、普段は仕事中にかけてくる人じゃないし、病院に行くとは聞いていたので、イヤな予感がして電話に出たら、「がんだった。もう入院しないといけないらしいわ」と言われて、頭が真っ白になりました。なのに、主人が「入院用のパジャマはもう売店で買ったからさ」とか冷静に言うもんだから、ちょっと腹がたちました(笑)。心配かけまいとしたんでしょうけど…。
−−手術はいかがでしたか?
Mさん:7時間半ほどかかったようです。がんは全部取れたと言われて、手術後の診断でステージ3bだとわかりました。手術後は高熱が続いて、点滴でなんとか生き延びている感じでした。食事はスプーン1杯の白湯からで、それを2杯、3杯と増やしていきました。幸い合併症などはなかったのですが、退院する頃に先生から「再発を防ぐために、化学療法をやります」と言われました。
奥さん:手術でがんが綺麗に取れたと言われたので、それで終わりだと夫婦共々思っていたんです。主人は「抗がん剤はいやだ」としきりに言っていましたが、私は再発が怖いからやってほしいとお願いをしていました。
Mさん:もともと大の病院嫌いで、風邪で病院に行ったことは人生50年、ゼロです。なので、抗がん剤なんてもってのほかだと。治療しても再発する可能性があるなら、しない方がいいと本気で思いました。「やるのは俺なんだから、俺が決める」と。
奥さん:主人は昔から本当に頑固で(苦笑)こうなったら私が何を言っても聞かないんです。それでも諦めるわけにはいかないので、進言しては喧嘩になり、先生から言ってもらっては「お前が先生に頼んだんだろう」と喧嘩になり、2日間で何度喧嘩になったことか…。困っていたら、主人のお姉さんがお見舞いにきてくれて、説教してくれたみたいで、次の日には「治療するわ」と言われて…嬉しかったですけど、同時にまあ腹がたちましたね。こっちだって心配して言ってるのにと。
Mさん:いやあ…まあ…別に姉だからというわけじゃないんですが、「周りの人がどんなに心配してると思ってるんだ」と言われて、自分だけの人生じゃないなと思って…というのも言い訳ですね(苦笑)。申し訳ない(笑)。
−−抗がん剤治療は、副作用がかなり辛かったとお聞きしました。
Mさん:副作用のフルコースじゃないかと思うほど、いろんな症状に悩まされました。脱毛、手足のシビレ、口内炎、貧血、めまい、吐き気…。一時的なものだと先生に言われても、一生続くような気がしました。本来、術後3ヶ月後に復職する予定だったのですが、とてもじゃないけど無理だと、会社に相談をして復帰を延ばしてもらいました。長時間の点滴注射を行うため、鎖骨付近にポートを埋め込む必要があったのですが、それもずっと違和感が拭えず、抗がん剤治療がお休みの時ですらイライラしていました。術後から退院まででマイナス5kg、そこから抗がん剤治療でさらに10kg体重が減ってしまいました。標準体重だったので、ガリガリに…さらに脱毛も加わって、見た目からして明らかにがん患者という容貌になってしまい、そんな姿をご近所に見られるのもイヤだと、外出することもできなかったです。
奥さん:私は主人のことが心配なのはもちろんありましたが、家のローンや治療費のことなどがあり、仕事を減らすことはできませんでした。なるべく主人が食べられるものを用意して家を出て、急いで帰って家事をする、そんな毎日で日に日に疲れが溜まっていましたね。でも辛い治療をしている主人の手前、疲れたとも言えなかったです。術後補助療法の2クール目だったかと思うんですが、その疲れと我慢が限界に達して、大喧嘩に発展したんです。
−−喧嘩のきっかけは何だったのでしょうか。
奥さん:その日はどうしても出なければいけない会社の創立記念のパーティーがあり、帰りがいつもより遅くなったのと、招待客のタバコの匂いが少し移ったまま帰ってしまったんです。そうしたら主人に「俺がこんなに辛い思いをしてるのに、いいよな」と吐き捨てるように言われて。
Mさん:今思えば八つ当たり以外の何者でもなかったです。続けて「俺は抗がん剤治療なんてしたくなかった、お前がしろって言うから」とか、色々言ってしまって…。
奥さん:それで爆発してしまって。「仕事もして、家事もして、薬の面倒まで見て、それでこんなこと言われるくらいだったら、もう何もしない!あなただって私がいないほうがいいでしょ!治療もやめたらいいでしょ!」ってようなことを叫んで、最低限の荷物だけ持って家を出ました。
Mさん:そこから丸々1週間、帰ってこないわ、電話は出ないわ、LINEも未読だわで。最初の2日間くらいはこんな状態の自分を置いて行くなんてという怒りが勝っていたんですが、何も連絡が取れないので、心配になってきて、家を見回すと、自分ががんになる前と変わらず綺麗に整理整頓されていたり、最近の妻の寝ている姿を見たことがないなと思い始めて…。
奥さん:会社にはビジネスホテルから通って、服はユニクロで買いました(笑)。飛び出した時は、正直離婚してもいいという気持ちでした。ただ、私たちには子どもがいません。ここで話し合いもしないで終わらせてしまったら、本当に一生の別れになると思いました。結婚して20年、子どもが持てないとなったときも乗り越えてきたのに、このまま終わらせていいのかという気持ちがだんだんと芽生えてきて、一度腹を割って話し合いをしようと思って、家に戻りました。
−−どんな話し合いをしましたか。
Mさん:まず、私が「病人」を笠に着て、全てを妻に任せてしまったことを謝りました。
奥さん:私も、「一人で全部やってるんだ」と思っていたこと、言わないで溜め込みすぎてしまったことを謝りました。
Mさん:話し合った結果、「抗がん剤治療がお休みで、体調がいい日は一緒に買い物などに出かける」「治療の方針は先生と妻の言うことを聞いて、文句は言わない」と約束しました。
−−そこからは素直に治療を受けたのですか?
奥さん:もうそれは素直で(笑)。私は、もともと二人きりの人生なので、健康で長生きしたいと思っていましたが、主人はお酒もタバコも好きで、今まで運動らしい運動もしてきませんでした。病院は嫌がるし…。いい機会だと思って代替治療を片っ端から試したり、ウォーキングを始めさせたり、もっと良くなったら一緒に尾瀬に行こうと約束させたりしました。半分仕返しも込みです(笑)。
Mさん:生き生きした顔で次々と代替治療を勧めてくる妻を見て、まだ怒ってるんだろうなあって思いましたよ(笑)。でも、この喧嘩と話し合いのおかげで、割り切って治療を進められましたし、このままではいかんなとちゃんと思うようになりました。代替治療がよかったのかはわかりませんが、この頃から、少し抗がん剤の副作用も楽になってきて、当初の予定の3クールが終了し、ちょっとずつではありますが、仕事にも復帰することができました。
−−しかし、3年後にまさかの再発…。
Mさん:最初の1年目こそ再発に怯えていたんですが、3年目ともなると、どこか「大丈夫だろう」という気持ちになっていたところだったので、定期検診の後、「腸に影が見えるので、再検査しましょう」と言われたときは、「まさか」という思いでした。
奥さん:検査の後に着信があったときは、「まさか」と。家では、「まだちゃんとした検査をしたわけじゃないから、気を落とさずにね」なんて月並みなことしか言えませんでした。
Mさん:そこから1週間後に検査をして、また1週間後に結果が出たのですが、「再発です」と…。気分は本当に地獄に突き落とされたかのようでした。結腸がんは局所再発はあまり起こらないと本で読んだのに、こういう肝心なときに貧乏くじを引くタイプなんだよなあ…とか。
奥さん:結果は一緒に聞きに言ったので、主人がショックを受けているのがわかったので、努めて冷静でいようと思いました。今後の治療方針の説明が先生からありましたが、疑問や主人の体の負担についてなど、とにかく少しでも疑問に思ったことは、質問するようにしました。
Mさん:その姿がすごく頼もしかったのを覚えています。他人の「絶対大丈夫」と言う言葉は素直には受け入れがたくても、自分のために色々と調べてくれて、今まで体にいいものを作ってくれて…そんな妻の「絶対大丈夫」は不思議と信じることができました。私はこいつについていけば大丈夫だと思いましたね。夫婦の力関係が逆転した瞬間でした。いや、今までも妻の手の上で転がされていたんだと思うんですが、それを認めた瞬間だったのかもしれません(笑)。
−−では、再発の際には喧嘩に発展するようなことはなかったのでしょうか。
Mさん:それが、そうでもなく(笑)、2度目の手術も抗がん剤治療も、やはりかなり辛く、それでイライラして喧嘩になってしまうときもありましたね。
奥さん:私も1回目の経験があったので、適度に放置したり、愚痴を聞いたり、とにかく主人がストレスがたまらないようにしようと心がけていました。「ストレスは何よりがんによくない」と先生にも言われたので。
−−2度目の手術を乗り越えて、1年が経ちましたね。
Mさん:今回は5年を超えて、勝ったと言いたいなと思っています。とにかくポジティブな気持ちでいることを心がけてます。言霊じゃないですが、なるべくいい言葉、前向きな言葉を発していると、自然とそれが思い込みではなく、本心になってくる。なので、意識してでも前向きな言葉を発するようにしています。
奥さん:私もいつがんになるかわかりません。定期検診とオプションでの婦人科検査は欠かさなくなりました。がんばって、二人で長生きしますよ!