
当たり前のように食べられている「りんご」に、大腸がんの抑制や改善に役立つ効果があるかも知れないという期待が広がっています。 ここでは、誰もが知っているりんごに秘められている特別な成分や効果について解説していきます。
ペクチンは粘り気の強い多糖類であり、水溶性の植物繊維です。尚、この粘性を活かして、ペクチンはジャム作りにも使われます。 ペクチンはりんご以外にも多くの野菜や果物に含まれていますが、特にりんごに含まれているペクチンが「りんごペクチン」です。
ペクチンの他にも、植物由来の水溶性食物繊維としてはグァーガムやアルギン酸などがありますが、これらの作用としては整腸作用や血糖値上昇抑制、血中コレステロール値上昇抑制と言ったものが知られており、水溶性食物繊維は人の健康にとってメリットの多い栄養とされています。
りんごペクチンの作用として、人の腸内で短鎖脂肪酸の量を増やす働きが認められています。この短鎖脂肪酸は腸内環境の改善に関係していると知られており、その中でも特に酪酸は大腸粘膜細胞の活性化を助けている栄養です。また、酪酸には抗炎症作用もあり、傷付いた腸管の治癒にも関係するとされています。その為、酪酸には、腸炎や大腸がんと言った様々な大腸疾患に対する予防成分としての有効性も期待されています。 さらに、りんごペクチンを摂取した人の糞便を調べた所、腐敗産物の量が減少していることも分かりました。これは、腸内環境を悪化させる腸内腐敗菌の代謝が抑制された結果と考えられています。
気管支喘息などの疾患や、花粉症などのアレルギー症状を引き起こす物質として知られているヒスタミンの血中濃度が、りんごペクチンの摂取によって約24%も低下するという実験データが得られました。
さて、ヒスタミンは人の体内で、大腸がんをはじめとする、様々ながんの悪化にも関係しているとされています。
例えば、がん細胞の増殖促進や、リンパ球によるがん細胞への攻撃を抑制することなどが、ヒスタミンによると考えられている作用の一部です。 つまり、りんごペクチンは、血中のヒスタミン量を減少させることで、間接的に大腸がんなどの予防や改善に効果があると示唆されています。
プロシアニジンとは、優れた抗酸化作用や抗炎症作用など人体にとって有益な効果を数多くを持っている、難吸収性のポリフェノールの一種であり、特にりんごやカカオ、黒大豆などに多く含まれている栄養です。
プロシアニジンには高い抗酸化作用があり、それによって細胞内の酸化的DNA損傷を抑制するという研究結果が得られました。DNAの損傷は細胞をがん化させる要因になり得る為、プロシアニジンにはがんを予防する効果があると期待されます。
プロシアニジンをはじめとするポリフェノールには、体内に侵入した様々な環境汚染物質に対する解毒代謝を促し、結果として有害物質による炎症や、発がん物質による細胞の損傷を抑制する効果があると考えられています。
りんごは、「1日1個のりんごは医者を遠ざける」とヨーロッパのことわざにあるほど、古くから人々に親しまれている果物であり、安全性も高い食材の一種です。 しかし、りんごはあくまでも食材であり、臨床的に大腸がんへの治療効果が認められている治療薬(抗がん剤)ではありません。 りんごの力を過信するのでなく、医師ともしっかり相談しながら、治療のサポートとしてりんごを上手に食生活へ取り入れていくことが肝要です。
[※1] 髙橋義宣,他(2008)「りんごペクチンオリゴ糖の整腸作用」
[※2] 国立研究開発邦人農業・食品産業技術総合研究機構「リンゴペクチンの機能性の解明」
[※3] 高橋浩二(2002)「マウス大腸癌腫瘍モデルを用いたヒスタミンの腫瘍増殖調節作用の研究(Abstract_要旨)」